2005-06-01から1ヶ月間の記事一覧

Milk

なんだってこんなにむしゃくしゃするのか分からない。 人が聞けばきっと、思春期にありがちなことだと笑うだろう。気がつくと僕はチャリンコをとばして、こんなところまできてしまっていた。親父の……前の親父の、そして僕の本当の父の自宅へ。父は僕を見るな…

抱えた両膝

私は部屋の壁に寄りかかり、自分の膝を両手で抱く。ため息が漏れた。 最近、全く面白くない。毎日が、人生が。人間関係の難しいさが、頭のてっぺんから重くのしかかってきた。いっそ誰にも会わずに生活できたら。そんなことさえ考えてしまう。 一人でいたい…

世界が終わる日

空に向かってそびえるビルの合間を縫いながら私は歩いた。 中華街の裏路地。猫やからすが残飯を漁っては生ごみを路上へ撒き散らす。周囲に害を与えているという点では、私達人間と変わりない。世界はもうすぐ終わる。漠然とそう理解したのは、つい最近のこと…

夏服

ドアを一枚隔てた向こう側にあなたの気配を感じた。 私の家の前で、ノックすべきかどうか悩んでいるのだろう。やっぱり昨日の喧嘩を引きずっているんだ。私は玄関先で、無言のドアを見つめた。ドアを、ノックして。私は、去年あなたのくれた夏服姿でまってい…

HOME

開けっ放しになった窓から初夏の風が忍び込み、カーテンのレースを揺らす。 火をつけたばかりの煙草をくわえたまま、僕はそこから外を眺めた。もうすぐ今日が終わる。街の喧騒も遠い。ふと、このまま自分はどこへ流れ着くのか考えた。社会に流され人に流され…

バックミラー

ふと目線を上げると、そこに懐かしい顔が小さく見えた。信号待ちの車内。 バックミラーに映る、一台後ろの車とハンドルを握る彼女の顔。僕に気づいているはずもないのに、肩から両腕にかけて硬直した。同じように信号を待つ彼女は髪の毛も長くなり、化粧も以…

とにかく無性に

彼を見る度に、濡れる。年下のくせに、私より弱いくせに、どうしてだろう。私の体は、彼が近くにいるというだけで、とても口ではいえないような有様となる。これじゃあまるで、なんとかの犬と一緒だ。だけど彼に対しての特別な想いを、本人へ伝えたことはな…

still

余程運命的なことがない限り、この町で君に会うことはない。 ふと道端に建つレンガで出来た建物に気がつき僕は足を止めた。なんの関連もないのに、君を思い出す。 天候の移り変わりみたいにころころと変わる君の表情を。今ごろ君は何をしているだろう。何も…

Moon

月よ。どうか、あの人も一緒に闇に隠して欲しい。 私は自室で両膝を抱えたまま、白塗りの壁に背をつけてうつむいた。あの人の裏切り。私のよく知る親友の、知らなかった一面。あの二人の関係なんて知らなければよかった。 薄暗い部屋には月明かりが差し込み…

氷 の プ ラ イ ド

伝えたい感情が言葉にならず、苛立ちに弾かれた僕は手にしていたグラスを床へ叩きつけた。本当はわかっているのだ。誰を守るべきか。それなのに薄っぺらいプライドが邪魔をして、うまくあいつに伝えることが出来ない。このままじゃ、きっとあいつは離れてい…

甘 い 痛 み

私には好きな人がいる。同じ中学で同じクラスの男の子だ。半年以上一緒でも、まだ話したことはない。というより話したくても避けられている以上、それは難しい。私は暗い、とみんなから囁かれいじめを受けていた。自分ではそんな自覚はないのだけれど、どう…

O N E

小さな物音で目がさめた。薄闇の中に立つ人影に息を飲み、それがシンジだと気がついて安堵する。彼の肩にかかったボストンバックが目に入った。 「いくんだね」 ベッドに横になったまま私は微笑する。 「うん。ごめん。どうしても叶えたい夢なんだ」 「わか…

夜 よ 明 け な い で

ぴんと張っておいたベッドのシーツが、朝にはしわになる。カーテンのレースから白々とあける外の明かりが差し込み、それを待っていたかのように彼がベッドから這い出した。 「帰るの?」 「ああ」 脱ぎ散らかしたシャツに腕を通しながら彼は頷いた。布団の中…

奇 跡 に 願 い を

由紀が心臓をわずらっていると聞いた瞬間、天と地が逆さまなるくらいのショックが僕を襲った。 「だから私ね、もうすぐ死ぬかもしれないんだ」 えへへ、と笑う幼なじみを目の前にして僕は口をつぐんだ。由紀が死ぬ?由紀が? 「手術をする前にどうしても会っ…

花火と君と

一瞬、小さな閃光を残して、花火の先はユナさんの手元から落ちた。 「あーあ」 残念そうに呟く彼女を見ながら僕は噴出す。その横顔はとても六つも年上の見せる顔ではなかった。 「楽しかった?」 僕が訊ねるとユナさんはこくりと頷いた。「ありがとね」彼女…

い つ か

協会の扉が開き、新郎新婦が肩を並べて姿を現した。 拍手喝采が沸き起こる。 「綺麗だね」 私は隣りに立つ雄太に耳打ちした。 「まったく。佐上さんにはもったいない奥さんだ」 雄太は言った。 「職場の同僚として思いっきり米をなげてやる」 「ライスシャワ…

君 の 額

ゆーちゃんのおでこ、暖かいね。 そう言って笑っていた彼女の額に自分のそれをそっと重ねる。ぞっとするほど冷たく、僕は彼女の青白い顔を凝視する。眠っているように、だけどかたくなに閉じられた瞳。 二度と僕を映さないユキの瞳。 「嘘だろ」 僕の呟きが…