夜 よ 明 け な い で

 ぴんと張っておいたベッドのシーツが、朝にはしわになる。カーテンのレースから白々とあける外の明かりが差し込み、それを待っていたかのように彼がベッドから這い出した。
「帰るの?」
「ああ」
 脱ぎ散らかしたシャツに腕を通しながら彼は頷いた。布団の中がとたんに冷えた。彼の横顔を見つめながら何度同じことを思っただろう。朝日は彼を連れ去ってしまう。
 だから夜夜明けないで。後少し。後五分。
「あなたが守るものって少なくとも奥さんじゃないわよね?」
 そう。きっと彼が守るものは自分自身。彼の背中は無言のまま私の部屋を去った。