O N E

 小さな物音で目がさめた。薄闇の中に立つ人影に息を飲み、それがシンジだと気がついて安堵する。彼の肩にかかったボストンバックが目に入った。
「いくんだね」
 ベッドに横になったまま私は微笑する。
「うん。ごめん。どうしても叶えたい夢なんだ」
「わかってるよ」
「僕らは子供じゃない。だから待っていてとは言わないよ」
 うん、と私は頷いた。待たないよ。ただ、忘れない。それだけは約束する。数秒後、彼は消えた。夢のために。残された私は一人でひっそりと泣いた。