奇 跡 に 願 い を
由紀が心臓をわずらっていると聞いた瞬間、天と地が逆さまなるくらいのショックが僕を襲った。
「だから私ね、もうすぐ死ぬかもしれないんだ」
えへへ、と笑う幼なじみを目の前にして僕は口をつぐんだ。由紀が死ぬ?由紀が?
「手術をする前にどうしても会っておきたかったの」
そういうと彼女は胸のところでちいさく手を振った。
「それだけ。じゃあね」由紀が、死ぬかもしれない?
「待てよ」
そんなの信じられない。彼女の背中が、歩むのをやめた。
「待てよ」
上ずりそうな声を抑えながら、僕は言った。
「由紀。お前、願掛けを覚えているか?」
うん、と背中を向けたままの彼女は返事を返す。
「いつも何か願い事があるたびに、俺たち、願掛けしたよな。明日晴れて欲しい。晴れなかったら今月の小遣いはきっともらえない、とかさ、テストでいい点が欲しい、取れなかったらお気に入りのシャツを一枚無くす、とかさ。そうやっていつも自分なりのルールを作って願を掛けた」
僕は必死になって言った。
「今回も願を掛けよう。とびっきりの願だ」
そうだ。いつだって僕らは一緒にいた。死別するのに17という年齢は若すぎる。
「由紀。お前の手術は成功する」
「やめてよ」
と由紀は言った。これから僕が口にするルールを察したのかもしれない。
「由紀の手術が失敗すれば」
「やめてったら」
「俺もきっと死ぬ」
「……」
沈黙が降りた。
「な。由紀。諦めるなよ。俺の願がきっとお前を守るから」
小さく頷く彼女の背中が震えた。一緒にいよう。ずっとずっと。僕は君を想っているから。