桜ノ木ノ下デ歌ウ

既にしどけないまでに咲き誇る桜並木を愛犬と共に歩く。ふと犬が立ち止まり辺りに視線を巡らせる。何か聞こえるのだろうか。周囲に人影はない。再び歩き始めた時、今度は僕が足を止める。ほんの一瞬耳元をかすめた若い女の歌声。囁きにも似た吐息混じりの歌声。桜に向かって犬が唸る。その木は他の桜より一際美しく、そして鮮やかに私達の頭上で赤く咲き誇る。
end